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<レビュー>映画『横道世之介』


2013年公開作品 『横道世之介』。東京国際映画祭での舞台挨拶レポートをお届けします。

2012年10月に六本木ヒルズで行われた東京国際映画祭でのグリーンカーペット・アリーナでの挨拶時の『横道世之介』の沖田監督と豪華キャストの面々。高良健吾と吉高由里は『蛇にピアス』以来の共演となる。写真左は伊藤歩。映画祭会期中の舞台挨拶の模様とあわせて作品レビューをお届けします。

(c) Nanako Kinoshita
(c) Nanako Kinoshita


INTRODUCTION

原作は、「パレード」や「悪人」など、著作が次々と映画化されている吉田修一の「横道世之介」。第23回柴田錬三郎賞、2010年本屋大賞3位を受賞した“青春小説の金字塔”と呼ばれる長編小説。

『南極料理人』、『キツツキと雨』の沖田修一監督が、不器用ながらも真っ直ぐに生きる世之介と周りの人たちを、優しさとユーモアに富んだ演出で包み込む。映画が幕を閉じても、観客全員にとって世之介は、思い出すたびニヤニヤと微笑んでしまう大切で愛しい存在になっているだろう。

主人公の世之介には、沖田作品4作目にして満を持しての初主演となる高良健吾。ガールフレンドの祥子には吉高由里子がキャスティングされ、『蛇にピアス』以来5年ぶりとなる共演が実現した。

共同脚本に名を連ねるのは、劇団「五反田団」の主宰の前田司郎。2008年、戯曲『生きてるものはいないのか』で第52回岸田國士戯曲賞受賞。2009年、小説『夏の水の半漁人』で三島由紀夫賞受賞。中学時代からの同級生である沖田監督の作品ならばと、夢のコンビが実現した。

(c)2013『横道世之介』製作委員会
(c)2013『横道世之介』製作委員会


STORY

長崎県の港町で生まれた横道世之介(よこみちよのすけ)は、大学進学のために上京したばかりの18歳。嫌味のない図々しさ、頼み事を断れない人の良さ、底が浅いのか深いのか測りかねる言動が人を惹きつける。

本作で描かれるのは、お嬢様育ちのガールフレンド・与謝野祥子をはじめ、世之介と彼に関わる人たちの青春時代とその後の人生。

そして、彼のいなくなった16年後、その愛しい日々と優しい記憶の数々は鮮やかにそれぞれの心に響きだす……。

(c)2013『横道世之介』製作委員会
(c)2013『横道世之介』製作委員会


EVENT REPORT

2012年10月に開催された東京国際映画祭で、前年の『キツツキと雨』に続き上映された沖田監督作品。
特別招待作品として本映画祭での上映が、初回のワールドプレミアとなった。映画祭開催時の舞台挨拶では主演の高良健吾と沖田修一監督が登壇した。

(c) Nanako Kinoshita
(c) Nanako Kinoshita


「こうして皆さんの前で上映することを嬉しく思っております」と話す沖田監督は、初めて原作を読んだとき「読んでいてすごく軽やかで、登場人物が動いている姿をみてみたいと思った」と語る。
「脚本を読んでみて面白い、いいシーンだなと思っているとき、世之介として自然に『狙わない』よう素直に演じた」と話すのは本作が沖田作品の4回目の高良健吾さん。沖田監督も「いつか彼を主役で」と思っていたそうだ。

共演の吉高由里子さんについて語る、高良さんと沖田監督。

吉高由里子さんと初共演だった『蛇とピアス』では「お互いに暗かったよね」と話したことを語る高良さん。今回現場では、段取りをお互いに決めようとしたとき「やめよう」と、あくまで自然に演技したエピソードを振り返る。

吉高さんの印象は「すげえなあ」と監督。「予期せぬことが起こることが楽しい」と高良さん。さらに1980年代の後半の設定での演技については、「時代のことは意識せずにやった」。また(その設定の中で)贅沢なメンバーと演技していることに醍醐味を感じていた印象を話す。

最後にこれから『横道世之介』を観る方へと質問された2人のメッセージは・・・。

高良「沖田組は自分にとって活き活きとしていられる場所。自分にとって(世之介という)こういう役を沖田さんとこのタイミングでできたことが大きかった。自由にみて持って帰っていただきたい」
沖田「ポスターの高良君の雰囲気にもあるように、映画に出ているキャラクターがその世界で活き活きと生きていると思います」

と観客へメッセージを送った。終始ほんわかとしたムードの舞台挨拶で、作品のよさが滲み出ているようだった。

※2012年10月、東京国際映画祭にて舞台挨拶取材。公開情報などは取材当時のものです。


REVIEW

この作品のすごいところは、主人公の「世之介」が、どんなことを考えて、どんな風に想って過ごしたかを一緒に見守れるというところにあると思う。スクリーンという目の前にいる「世之介」は活き活きと生きていて、大学に入りいろんな出会いがあって様々な出来事が起こり、それでも「世之介」らしさは変わず、どこか漂々とした人間味がある。だから映画の最後まで、人生のある一時を「世之介と一緒に過ごす」ような気持ちになる。

誰にでも訪れる学生時代とその数年後の日々。切り取ると不思議な体験だったと思う。自分のやりたいことを見つけていって大人になって、でもあの日々は変わらない。個人差はあっても、何かを学んでいて、サークルや部活、アルバイトを色々経験して、「何であんなに元気だったんだろう」と、学生時代を振り返ると不思議でならない。

東京国際映画祭での舞台挨拶では、後日、試写をみたあとにこのコメントを聞きなおして、納得の臨場感を覚える。沖田組が、自然なリアクションや予期せぬリアクションに満ちていて、高良健吾さんが演じる「横道世之介」を通して、「自由に見てもらい持って帰ってもらいたい」という作品だと聴き、映画を思い出すと納得するコメントだと思う。

沖田監督の旧友である劇団「五反田団」の前田司郎さんが脚本を手がけたことから、言葉の端々にちょっとした自然な、そして少しコミカルなリズムが生まれているのも見どころかもしれない。

観終わって、「あーよかった」とちょっと涙ぐんでしまう。そんな映画です。 (2013/02/27)


【作品情報】

出演:高良健吾 吉高由里子 池松壮亮 伊藤歩 綾野剛 朝倉あき 黒川芽以 柄本佑
佐津川愛美 堀内敬子 大水洋介(ラバーガール) 田中こなつ 井浦新 國村隼 きたろう 余貴美子

原作:吉田修一
監督・脚本:沖田修一
脚本:前田司郎

主題歌:ASIAN KANG-FU GENERATION 「今を生きて」(キューンミュージック)

配給:ショウゲート

■【公式サイト】 http://yonosuke-movie.com/
■【Facebookページ】 http://www.facebook.com/yonosuke.eiga
■【Twitter】 https://twitter.com/yonosuke_eiga

【2013年公開作品】

(c)2013『横道世之介』製作委員会

※ 情報は掲載当時のものです。