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<レビュー>映画『しわ』(原題:Arrugas)


三鷹の森ジブリ美術館 配給作品『しわ』。Blu-ray & DVD情報と共に、本作の魅力にせまります。

新宿バルト9ほかで2013年6月に公開された、三鷹の森ジブリ美術館配給『しわ』(原題:Arrugas)。スペインのアカデミー賞とも呼ばれる第26回ゴヤ賞で「最優秀アニメーション賞」「最優秀脚本賞」を受賞したスペイン・アニメーションである本作の初日舞台挨拶(2013年6月22日開催)の模様とともに、Blu-ray/DVD発売情報をお知らせします。

INTRODUCTION

スペイン人のアニメーターであるイグナシオ・フェレーラス監督と三鷹の森ジブリ美術館の中島清文館長が登壇した『しわ』(原題:Arrugas)の初日舞台挨拶が2013年6月22日に開催されました。本作は、スペイン公開時に社会的反響を呼び、第26回ゴヤ賞で「最優秀アニメーション賞」「最優秀脚本賞:を受賞するほか、教育番組の世界的なコンクールでもある「日本賞」で、2012年度グランプリを獲得。『夜のとばりの物語』に引き続き「三鷹の森ジブリ美術館ライブラリー」の提供で本作は劇場公開されました。

(c)2011 Perro Verde Films - Cromosoma, S.A.
(c)2011 Perro Verde Films – Cromosoma, S.A.

Blu-rayやDVDも発売・レンタルを開始された今もなお、劇場上映が続き、ロングランを果たしている『しわ』の原作は、スペインの漫画家パコ・ロカが描いた『皺』(第15回文化庁メディア芸術祭マンガ部門「優秀賞」受賞)。この原作をイグナシオ・フェレーラス氏が監督した長編アニメーションが『しわ』である。フェレーラス監督は若き実力派のスペイン人・アニメーターで、日本のアニメーションから多くを学び、高畑勲監督のアニメーションから影響を強く受けていると語ります。本作のテーマは「老い」「認知症」であり、高齢化時代を迎えた現在でも社会問題とされています。その「老い」「認知症」と向き合うとき、本当に必要なのは「家族」か「友達か」。そんなテーマを、温かな手描きアニメーションの手法で説きにコミカルに、さりげなく描き出しています。

(c)2011 Perro Verde Films - Cromosoma, S.A.
(c)2011 Perro Verde Films – Cromosoma, S.A.


STORY

かつて銀行に勤めていたエミリオは、認知症の症状が見られるようになり、養護老人施設へと預けられる。同じ部屋のミゲルは、お金にうるさく抜け目がない。食事の時のテーブルには、面会に来る孫のためにバターや紅茶を貯めている女性のアントニアや、アルツハイマーの夫モデストの世話を焼く妻のドローレスらがいる。施設には様々な行動をとり、様々な思い出を持つ老人たちが、日々の暮らしを送っている。そして症状の重い老人は、2階の部屋へと入れられることが分かっていく。

そんなある日、エミリオはモデストと自分の薬を間違えられたことがきっかけで、自分もアルツハイマーであることに気づいてしまう。ショックで症状が進行していくエミリオは、2階へ送られる日も遠くはない。そんなエミリオのことを想い、ついにミゲルは「ある行動」に出るのだった…。


COMMENT

「アニメーション映画の持つ可能性がまたひとつ広がった」(高畑 勲監督/アニメーション映画監督)
『しわ』という作品で、アニメーション映画の持つ可能性がまたひとつ広がった、とわたしは思っています。元になっているコミックスがまずそうなのですが、この映画は、誰もが無関心ではいられないが、そのくせ、できれば目をそらせていた老後の重いテーマを、勇気をもって扱っています。わたしはひとりの老人として、人間として、一アニメーション従事者として。映画『しわ』に心から敬意を表します。
(高畑 勲監督コメント)


EVENT REPORT

新宿バルト9にて開催された初日舞台挨拶。スタジオジブリ作品『かぐや姫の物語』監督としても知られる高畑勲監督に影響を受けたスペイン人アニメーターが、『しわ』の監督であるイグナシオ・フェレーラス氏だが、まず、ジブリ美術館館長の中島清文氏(写真下)が登壇。”初日初回”の上映後の舞台挨拶に関して中島館長は「なかなか緊張しますね」言いながらも快活な口調で切り出した。「舞台挨拶の司会をするのは初めてではないのですが、ジブリの関係者の試写会のときもそうでしたが、『しわ』という作品の上映後は、なかなか前に出づらいものです」と話す中島館長。

(c) Nanako Kinoshita
(c) Nanako Kinoshita

そして、中島館長に呼ばれたイグナシオ・フェレーラス氏が登壇。中島館長から「この作品が上映されるきっかけとなったのは監督自ら高畑勲監督に『しわ』を観てほしいと”持ち込み”をしたところから始まるのですね」と聞かれると、フェレーラス監督は、いかに高畑監督に影響を受けてきたかを語った。そして”監督”としてだけでなく「(特に)20歳くらいから観客としても観るのが好きなのが高畑監督作品でした」と、”観客”としても高畑作品に多く触れていたことを明かすと、「監督として『しわ』を作っているときも、高畑監督の『おもひでぽろぽろ』を思い出し、登場人物の人となりの描き方を思い浮かべていました」と、制作中のエピソードを話した。また、高畑作品を例えるなら「決して届くことはないけれど、目指していくトップの『頂き』のような作品」と表した。そして実は『アルプスの少女ハイジ』を観ていた幼少時代がフェレーラス監督にあったことが中島館長との話で判ります。

(c) Nanako Kinoshita
(c) Nanako Kinoshita

フェレーラス氏は「4歳か5歳のころ、当時スペインで放送されていた『アルプスの少女ハイジ』や『母を訪ねて三千里』を観てまして、両親から聞いた話では毎回欠かさず観ていたそうです」と話すと、中島館長は「ハイジ」についての話を繰り広げます。実は、ヨーロッパでは『アルプスの少女ハイジ』は音楽なども含めオリジナルから、かなり改編されており、「スペイン版ハイジ」だけオリジナルに忠実なかたちの「ハイジ」が観れたそうです。三鷹の森ジブリ美術館で「アルプスの少女ハイジ展」を企画・展示していたときは、その「スペイン版ハイジ」の音楽を展示室に流していたほど。

そして、フェレーラス氏に中島館長は「アニメは好きでしたか?」「仕事にしようと思っていましたか?」という疑問を投げかけます。「20歳くらいに、アニメが好きではありましたが、アニメ業界で働こうとは思ってもいなかった」むしろ、「アニメの世界が”ミステリアス”でどう入っていいか分からなかった」と監督。そんな彼にも転機が訪れる「偶然」がありました。「友人がたまたまアニメーション・スクールの広告を見つけ、私はその学校に入り、偶然が重なってここにいる」と。

(c) Nanako Kinoshita
(c) Nanako Kinoshita

演出については「ジブリに多くを学びました」とフェレーラス監督。「スタジオジブリの高畑監督や宮崎駿監督の演出の独特の”映画言語”」が詰まった『ストーリーボード』を出版物から学び、そこから高畑監督・宮崎監督ふたりの「スタイル」を学ぶようになります。この重要な”鍵”ともいえる『ストーリーボード』。スタジオジブリも今となっては全機能がスタジオに集結して監督が様子をみれますが、ちょうど「ハイジ」の頃の’70年代・’80年代の日本では、現在のスペインように、チームが別々の場所に分かれており、統一基準を作るために『ストーリーボード』を「ハイジ」で作り挙げたのが始まりだったようです。そして『しわ』では「制作費が限られていたため、私はエジンバラにいて他のアニメーターたちは別の地域にいました」と。だからこそ、離れた相手にも自分の思い描く世界が伝えられる『ストーリーボード』が重要だったそうです。

そして実際、フェレーラス氏がまさにその高畑監督に初めて会ったときの印象は、「奇妙な感覚でした。ずっと書物で見ていたのと同じ人物は目の前にいて、しかも動いている」「謙虚で、対等に扱ってくれた。初めて会ったときは冬でしたが、私が帰る際に通りまで出てきてくださり、見送ってくれた」と、感銘を受けたと話します。そしてこのページ上部にもコメント記載がありますが、高畑監督から「アニメーション映画の持つ可能性がまたひとつ広がった」と言われたときの印象として、フェレーラス氏は「非常に身に余るお言葉で、高畑監督がまさに可能性を広げています。『火垂るの墓』でもそうです。これまで私は高畑監督されてきたことに、ついてきました。そして、これからも、ついていきます」と話しました。実際の商業的な面をジブリ美術館のライブラリー事業担当者で話し合った際、『しわ』に対して高畑監督はこう言ったと中島館長は言います。「この作品はどのような結果になっても日本の人に観てもらいたいですね」と。この一言で『しわ』は公開が決まったそうです。高畑監督・宮崎監督が志を同じとした作品を配給するというこの三鷹の森ジブリ美術館ライブラリー事業。フェレーラス監督の次回作も「またジブリ美術館ライブラリーで扱わせてください」と誇るべきスペイン人アニメーターに中島館長はエールを送りました。
(録音: 2013年6月22日/新宿バルト9にて)


REVIEW

その土地にあった世界観があるのだと改めて認識したのが『しわ』である。
下にある場面写真から分かるように、「スペイン」の高齢の方の世界は土地特有かと思う。
若き日の姿で列車に乗っている姿、これがある高齢者の方の世界観での姿である。

アニメーションは比較的子どもたちのためを意識して作られるから、絵と字幕を目で追うのが大変だから
日本語吹き替えもあるが、『しわ』はスペイン語でスペインの「老い」「認知症」をテーマにして描かれる作品なので、そのまま字幕付きで見るのがおすすめかとも思う。

土地にはその土地ならでは言葉が生まれ、雰囲気があり、音の響きがあります。

スペイン語はなじみがあまりないかもしれません。
でもバルト9でこの映画をみた2人のカップルらしき男女は「エミーリオ!」と作品中の名前の呼び方を真似しながら、エスカレーターを降りていきました。

スペインといえば、おおらかなイメージがなぜか私にはあって、そんな国にも
当たり前のように「老後」がある。

自分の祖父母を見ていた自分には、イメージが付きやすい「老後」も、スペインではちょっとまた別。
でも共通点はある。だんだん自分も周りも分からなくなる人もいる。

けれど、周りで支える人はあたたかい。今まで通りの接し方。相手がたとえ分からなくても、一緒。
「おじいちゃん」「おばあちゃん」として接するかもしれないけど、ほとんど変えない。
分かってもらえなくても気にしない。今の「おじいちゃん」「おばあちゃん」に伝えているから。
自己満足も少し。でも「なんとなく分かっているのでは?」と「本能」としての対応に気付くこともあると知る。

だから、少しはらはらしながらも、『しわ』は見ておいたほうがいいし、長編アニメーションとしても
素晴らしい描写だし、素敵な作品だと私は思うのです。

家でBlu-rayやDVDでいろんな言語で楽しむのもいいだろうし、まだ東京や静岡でも公開する映画館はあります。納得のロングランなので、この機会に見てほしいと思います。

(2014/2/20 文:木下奈々子)

※情報は公開当時のものです。


【作品情報】

『しわ』
監督 イグナシオ・フェレーラス
原作 パコ・ロカ『Arrugas】(西 Astiberri社/仏 Delcourt社刊)
字幕翻訳 金関いな

DVD&Blu-ray情報

『しわ』(発売中)
【発売元】ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
【レーベル】三鷹の森ジブリ美術館ライブラリー
【2011年製作/スペイン/本編約89分】

■Blu-rayディスク
【価格】4,935円(税込)
【商品番号】VWBS1489
【商品仕様】BD50/ピクチャーディスク/MPEG-4AVC/MGVC/複製不能
【音声】スペイン語 【字幕】日本語・スペイン語・英語

■DVD
【価格】3,990円(税込)
【商品番号】VWDZ8774
【商品仕様】片面2層/ピクチャーディスク/MPEG2/NTSC、日本国内向けリージョン2)/複製不能、マクロビジョン
【音声】スペイン語 【字幕】日本語・スペイン語・英語

(c)2011 Perro Verde Films – Cromosoma, S.A.