劇団はえぎわ 『ガラパコスパコス ~進化してんのかしてないのか~』/俳優 滝寛式さん
劇団はえぎわ第26回公演『ガラパコスパコス ~進化してんのかしてないのか~』出演、滝寛式(たき ひろしき)さんに聴く“俳優になった訳”
INTRODUCTION
「チョークと、描ける壁があればできる演劇」を打ち出した『ガラパコスパコス』
2010年初演で、2013年6月に三鷹市芸術文化センターにて再演された、劇団はえぎわの舞台。自らも俳優として活躍する主宰のノゾエ征爾による作/演出の舞台。世田谷パブリックシアター主催の企画により、毎年初夏に高齢者施設での巡回公演を行うようになったことで、普段とは「空間」も「観劇者」が異なる演劇から「言い知れない感動や衝撃」を感じ立ち上がっていったのが『ガラパコスパコス ~進化してんのかしてないのか~』である。「チョークと、描ける壁があればできる演劇」を打ち出した本作だが、舞台に設置された壁に俳優がチョークで様々な言葉などを描きながら台詞を言葉にする舞台になっている。
「劇団はえぎわ」とは
1999年、ノゾエ征爾、井内ミワクらを中心に始動。2001年に劇団化。過激アングラ期、賑やかエンタメ期などを経て現在に至る。卓越した発想力とユーモア、独特な奇想天外な世界観。独自の「嘆きの喜劇」とも言えるそこには、図らずも副音的なメッセージが見え隠れする。
「チョークと、描ける壁があればできる演劇」を打ち出した『ガラパコスパコス』(2010年初演)、第56回岸田國士戯曲賞授賞作品『◯◯トアル風景』(2011年)のほか、最新作『ライフスタイル体操第一』(2012年)では老年の新人俳優を多数採用するなど、滑稽かつ躍動的に、新たな境地を開拓しつづけている。次回本公演を2014年夏に予定する。
長生きしたい反面、同時に老いを悲観する見事なる「矛盾」こそが人間らしく素敵だ、という想い。
「なるべくなら長生きしたいと思う私たちではあるけども、同時に老いを悲観する私たちなのでもあり、この見事なる矛盾こそが人間らしく、素敵だ」とノゾエ氏が語るように、世田谷パブリックシアター主催・企画の「老い」た人々が集う場所での舞台を通して感じ作品化されていった本作。その「矛盾」を抱える「人間の様に対する興味は尽きないもので、そんな想いで構築されいった作品ですが、特に押したいメッセージなどは特になく、ただ、このご一緒するヒトトキが、楽しい時間になるといいなとそればかりです」という気持ちから上演された。(ノゾエ征爾氏コメントより/舞台パンフレット抜粋)
INTERVIEW
俳優インタビューの初回となるのは『ガラパコスパコス』出演、滝寛式(たき ひろしき)さんです。
初回のインタビューは『ガラパコスパコス』で特別養護老人ホームスタッフを演じた俳優の滝寛式さん。大学に入るまで舞台を観た経験がなかった滝さんですが、大学の「部」としてあった劇団に参加することが、俳優として活動するきっかけになります。カモシカワークスの木下が大学時代に舞台で演じている滝さんを観て、実際に同じ舞台に立つようになってから、10年ぶりにはえぎわ公演を拝見して今回のインタビューに至りました。
(インタビュー: 2013/7/1、聞き手・撮影: 木下奈々子 /舞台・楽屋 記録撮影: 梅澤美幸)
Q1 今回の舞台『ガラパコスパコス』は再演ということですが、上演にあたり劇団で決定された背景をご存知でしたらお願いします。
正式にいうと再演ではなく再々演になります。広島の劇団が、いわば『ガラパコスパコス』広島版として本作を再演して、東京では五反田にあるアトリエヘリコプターという劇場で2ステージ上演されました。そして、三鷹市芸術文化振興財団の運営管理をされている森元さんが観劇されて三鷹で「はえぎわ」としてやる事になりました。
なので、劇団はえぎわとしては『ガラパコスパコス』は2度目の公演になりますが、初演は評判はすごくよかったのと、はえぎわでは出るCASTありきで(舞台の内容が)決まっていきます。今回は、劇団員の数名が出れない。それで劇団「ままごと」演出家の柴 幸男さんが出ることになりました。柴さんは役者ではなく演出家なので、役者としては最初で最後という形で主役の木村太郎役で出演頂けました。
Q2 「チョークと、描ける壁があれば出来る演劇」がコンセプトでしたが、演じてみていかがでしたか?
小道具が無くなったのは大きいです。それまでの作品では、舞台裏が物で溢れかえってごちゃごちゃしていました(笑)。表現としても、文字だったり、絵だったり、演じる人によっての見せ方が変わってくる面白さが、この作品にはあると思います。
稽古中のオフショット
– 難しさ、その反面、面白さはありましたか。
難しさはー…セリフを言いながら、別の言葉を書くことで、稽古の最初はまともに文字も絵も書けませんでした(笑)。本番では…誤字をしてしまった事もありました。
面白さで言えば、書く事での表現の自由さと、斜めの舞台の上で一度もはけずに疲労を蓄積していくという感覚は楽しかったです。中腰前屈みで止まった状態で30分くらいは汗が滴り、M精神を養った気分にもなりましたが(笑)。
Q3 「はえぎわ」として再演(作品としては再々演)してみて、前回と比較していかがでしたか?初演と同じ役を演じられたのでしょうか?
初演は2010年にこまばアゴラ劇場で上演されました。初演と比較して会場が「広さ」で異なり、また「配役」が異なるという違いはありました。前回は作品に出てくる2人の養護施設のスタッフのもう一方の役を演じていました。台本では名前がついているのですが、それはパンフレットには書いていないと思います。ただ、単純には前回と比較は出来ないです。あれはあれ、これはこれというか。初演では客観的な判断は出来ず、お客様の反応があって初めて理解した部分があり、更に広島バージョンで作品の魅力を肌で感じました。それを体験した上で改めて作品に挑むというプロセスは明らかに違ってはいました。
Q4 少し今までを振り返ってみようと思いますが、「はえぎわ」に参加されるようになったきっかけは、どういったことですか?
ノゾエさんとの出会いがきっかけです。はえぎわに参加する前に自分がいた「劇団桜丘社中」と「散歩道楽」がそれぞれの作品を前半と後半に分けて合同公演を行なったのですが、ノゾエさんが「散歩道楽」に客演していて、それが出会いでした。その時にすぐに「はえぎわ」に誘われたのですが、僕の芝居をノゾエさんは観ていたのかは分かりません(笑)。
– 2000年にはえぎわにて客演を開始され、同年に劇団員になったのですよね。
第4回公演が初参加で、第5回から「はえぎわ」が劇団化したのをきっかけに、当時所属していた「桜丘社中」を辞め「はえぎわ」の一員として参加するようになりました。
– ノゾエさんと出合ったときの印象はどのようなものだったのでしょうか。
先に述べた「散歩道楽」に客演している役柄の印象が強く残っています。精神が壊れているような病的な、それでいて面白い、本当に魅力的な人だと思いました。一緒に飲んで話した時の印象はとても普通だった気がします。はい、あまり覚えてないです(笑)。
Q5 俳優をやられるようになったきっかけは、出身大学の劇団での活動でしょうか。私は一度、滝さんの出身大学の舞台をたまたま拝見していて、その後間もなくスタッフをした舞台でCASTとして参加している滝さんに稽古場で偶然会ったのを思い出します。その後、私が所属していた(劇団)温水Y(ぬくみず わい)の旗揚げ公演でも、客演をしてもらうという稀有な経験をしましたが、、
地元にいた頃は文化的なモノに興味を持たず、学校行事で演劇鑑賞会があってもサボって麻雀してたりしたのですが、上京をきっかけに、何か文化的なモノに触れておこうと思い、大した考えもなく大学の演劇部に入りました。正直、自分たちの芝居は面白いと思えませんでした(笑)。けど、芝居を観る機会はたくさんあり、芝居の面白さは体感出来ました。
– そのあと、(劇団)温水Yに出演したきっかけは何だったんですか?俳優を続けられていますが、それはなぜですか。
近藤輝明くんと知り合い、「旗揚げするから出て」と誘われました。それから、外部の参加が増え色々な人に出会うようになり、そこからが始まりです。「桜丘社中」に入ったのも近藤くんのお陰でもあります。
俳優は、自分の思うようにいかないし、稽古中はすごく不安というか面白さがなかなか持てない、正直つらい時の方が多い。でも舞台の本番でお客さんと向き合ってそこで、初めて報いられる。そこが好きなんだと思います。
– 芸名の由来はなんでしょうか。
芸名は、ノゾエさんの2択で、①「タキヒロシキ」と ②「タキヒロシ」とどちらがいい、と言われました。それで「タキヒロシ」は館ひろしさんみたいなので、それはどうかと…。「タキヒロシキ」は、よく冗談で「(食べ物の)ピロシキとかけているの?」と思われがちはありますが、この前ノゾエさんに「ピロシキとは違いますよね」と聴いたら、「関係なくはない」と言われました(笑)。ノゾエさんからは漢字で提示されていたので、結果的に「滝寛式(たき ひろしき)」になりました。
今後の活動について、メッセージをお願いします。
次回は劇団東京フェスティバルの『泡』という公演に、2014年9月に出演します。原発を扱う人情喜劇です。以前、下北沢のOFF OFFシアターで上映されたもので、限られた人数の方にしかお見せできなかった作品なのですが、すごく反響があった。それをもっともっと観てもらいたいとという想いから、福島の4つの劇場と恵比寿のエコー劇場で開催されます。これは、下北沢で上演したときに、福島のテレビ局の方の目にとまって、福島での公演も決まりました。CASTとしては朝倉伸二さんや「夢の遊民社」に以前所属していた川俣しのぶさん、元「演劇集団キャラメルボックス」で、現在LDHに所属する近江谷太朗(おうみや たろう)さんも出演します。
劇団はえぎわは、次回は来夏を予定しています。小屋への時期的な希望は出していますが、現段階でまだ日程など決定していません。内容もこれからです。「はえぎわ」を観る方には、何も考えず、直感で観てほしいと思います。いろんな仕掛け含めて、舞台を楽しんでほしいです。(以上)
本日はありがとうございました!
※公演の日程は、インタビュー収録時の情報になります。
Profile: 滝 寛式(たき ひろしき)/ 劇団はえぎわ 俳優
1976年生まれ。東京理科大学中退。大学在籍時から舞台活動を行う。2000年から劇団はえぎわの客演を経て、同年、正式な劇団員として参画。以降、はえぎわの舞台のほか、CMやTVドラマ『松尾スズキの頭ン中。』(2004年、フジテレビ系)『まちドラ~東京OL処世術~』(2012年、TBS系)などにも出演。
「日本人離れした顔立ちとスタイルで、はえぎわでは珍しく2枚目をこなすことができる貴重な存在」と言われている。このルックスを生かし、「アジア系やアフリカ系外国人、シーラカンス(深海魚の精霊)などキャラクターの強い役柄も親近感をもって演じる」と劇団内でも定評がある。2012年には、はえぎわ主宰のノゾエ征爾氏が『◯◯トアル風景』で第56回岸田國士戯曲賞受賞。注目を集める。
(敬称略/舞台記録写真: 梅澤美幸 インタビュー聞き手・撮影: 木下奈々子 編集: 山本拓)
REVIEW
ちょうど私が「劇団はえぎわ」の舞台を観たのはもう随分前で10年くらいは経っているはずです。
そのあとも、他の劇団の舞台で、滝さんを観たことがあったのですが、
ちょうどアングラ期にあったはえぎわさんの舞台を観たのが初回だったので、
正直、舞台上を、どきどきひやひやしながら観たのを覚えています。
私が舞台活動を休止というか、「映像の世界に行きたい」と言って、舞台に携わることはなくなった後に
滝さんの「はえぎわ」を観たのですが、私はその後もそのまま演劇を離れてしまい、異なる仕事をして
大分たってから、シナリオ・センターやキネマ旬報さんの講座を受けて、
映画・ドラマの企画などを考えるようになり、カモシカワークスを作るようになります。
そして、改めて舞台人は凄い、俳優はすごいと思えてならないのです。
それはあの空間で、観客の前で、明かりがさしている舞台で、集中して台詞と動きで
観客を魅了するということが、どんなに難しいかが、やはり体感として覚えているからです。
滝さんの舞台や舞台写真を観ていて、ここまで「無」で観客を魅了できる人はなかなかいないと思います。
ビジュアルもそうなのですが、こだわりがきちんと自分にあって、でもインタビュー中は、
ぽつぽつ話され、あまり”ガッ”と語る方ではないのですが、きちんと想いを口にする…。
今回、ひさしぶりに「はえぎわ」の舞台を観て、昔と変わらないメンバーの方もいて雰囲気を思い出したり、
ちょっと以前と似ているアウトローな台詞まわしもあるんですが、「面白かった」と素直に思えたのです。
『ガラパコスパコス』は、身体に安全なチョークを使って、3方向(右手・左手・後ろ)と床という
4面に「壁」があって、そこに文字や絵を描きながら、話が進んでいきます。
普段、客観視して役を演じることはあまりないという滝さんですが、
『ガラパコスパコス』の広島バージョンが東京公演をしたときに、初めて、
「観客にはこう見えているんだ」と客観視出来たと話しています。
それが今回の劇中の決まりごとのある中でも動きがある、ダイナミックな舞台づくりに
反映されているんだと思います。
スチールも撮っているとき、笑いながらポーズをとっているんですが、ほとんど数枚しか撮ってなくて
なんか喋りながら「あれ、何にも言わないけど、これでいいの?」と本人は笑いながら、
こちらもなんか喋りながら数枚撮るわけです。それで、取材が終了しました。
写真を撮るときは、やっぱり立ち姿のきれいな見せ方をするな、と思うんです。
舞台活動時代に、私は、台詞覚えの悪いので、舞台裏でよく台詞を覚えなおして舞台に出て行くのですが、
眼鏡をかけない設定の役なのに舞台で眼鏡をかけて出て行ったこともある。
お分かりのように、楽屋で眼鏡をかけて台本を読んでいたからです(笑)。
滝さんと、(劇団)温水Yで共演してから、
劇団桜丘社中という劇団で舞台に出演させて頂いて、また滝さんとご一緒させていただいたのですが、
そこでは、千秋楽で台詞が飛んで、30秒くらい、いや50秒くらい「あれ?」という空気になった。
今でも覚えているのですが、台詞が出てきて、下手にはけて、近くにいた滝さんにまず謝ったんです。
「ごめん!」と。その後、滝さんは「いや全然!」と首を振りながら笑って言ってくれたわけです。
それが印象的でした。
あれから、ずっと台詞を覚えず舞台があくという悪夢を見るんですが…(笑)。
そして、あれから滝さんは俳優として活動を続けていた。これはやっぱりすごいんです。
私もたまに映画やドラマの現場でお世話になったりするのですが、
ひさしぶりに自分以外の人間として動くと、集中はすれども、なかなか勝手が分からない。
でも少しずつカメラの位置がわかり、その人間として居れるようになる、気がします。
改めて今回、「舞台を観るとこんな気持ちになるんだ」という感動・感銘から、
滝さんに初めての俳優インタビューを依頼しました。
ひさびさ滝さんと舞台の話を出来てよかった。
そう思いました。
次回作も、いつも通り無我夢中、がんばって下さい。
(文・木下奈々子)
【劇団はえぎわ・お問合わせ】
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TEL: 03-5467-4120 E-mail: info@haegiwa.net
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